神鳥の卵 第32話


映像を見ていた面々は開いた口が塞がらなかった。
最初に立ち直ったのはC.C.。

「これはこれは。予想以上にわかりやすい証拠だな」

軽く馬鹿にするような口調はわざとだろう。
彼女の視線は、その対象であるスザクへと向いたが、残念ながらスザクは表情を固くし、画面から目をそらさない。相当ショックを受けているのか、顔色が悪い。それはそうだ。誰が見てもわかる証拠だから。

「・・・あー・・・これは・・・バレるわね」

ようやく立ち直ったカレンは、納得したように頷いた。もし自分がゼロの正体を知らずにこれを見たら100%疑う。いや、むしろ絶対そうだと確信し、ゼロに詰め寄るぐらいはしただろう。今までコレに気づかなかったなんてと大きく息を吐いた。

「ですがルルーシュ様。こちらの映像は黒の騎士団のもの。外部に漏れるとは思えないのですが」

ジェレミアは、至極まっとうなことを言った。とはいえ、この映像は不正な手を使いルルーシュが手にいれた物。つまり、相手にもその技量があるなら盗めるという事だ。セキュリティの甘さに関してはすでにシュナイゼルに通達済み。急ぎ改善策が取られ、どこの誰がハッキングをしたかも調べ済みだった。

確かに世界は安定し、平和を享受していた。
戦争もテロもない平和を。
だが、争いが無いわけではない。
そういう場所には黒の騎士団が、あるいはゼロが出て場を鎮めた。
ここにあるのはゼロが動いた時の映像。EUやアジアでの紛争を鎮めるため戦った時のもの。ゼロが戦場に出て鎮圧した。それ自体にはそこまで問題はないのだが。
・・・あからさまに、動きがスザクなのだ。
太刀筋や重火器の扱いやKMFで体術を使うのもそうだが、何より特徴的なのは蹴り。白兵戦でもスザクが多用するあの回転する蹴りである。

「どこからどうみても、くるくるキックだな」
「・・・そうだね」
「ちょっとまって。この蹴り、そんなかわいらしい名前なの!?」

ルルーシュの指摘と素直にうなづくスザクにカレンは突っ込みを入れた。
どんな体制からでも使用できるらしい謎の回転キック。
普通に蹴った方が威力あるんじゃないの!?と常々思うが、重力を無視したジャンプからの回転し蹴り自体が普通の人間には無理だから検証もできない。それこそゲームやアニメの世界でしかありえないはずの技を、当たり前のように使う人間はスザク以外で見た事はない。

「ちゃんと正式名はあるんだけど」
「陽昇流誠壱式旋風脚。スザクがちゃんと覚えないから、藤堂がくるくるキックと名付けた技だ」

なつかしいなとルルーシュが笑った。

「と、藤堂さんが・・・?」

まさかの名付け親にカレンは苦笑いをした。いや、武術を習っていたのは戦争前だから10歳前後。その年齢の子に堅苦しい名前よりも簡単なものをと、藤堂なりの配慮なんだろう。ということはこの技、藤堂も使えるのだろうか?陽昇流という流派の技なら、教えた藤堂が使えないはずがない。今度聞いてみよう。

「なんにせよ、ナイトメア戦でこの攻撃を使う利点はスザク以外にはないからな」
「そうね。体制も崩れるし、普通なら殴ったり蹴ったりでKMFの装甲は壊れないもの。牽制にしかならないからやる意味はないわ」

スザクは殴りや蹴りでも壊すから規格外なのだ。
確かにダモクレス戦でカレンは紅蓮の拳でランスロットに致命傷を与えた。だが、あれは腕を犠牲にする前提のものだ。関節が多い手のパーツと胴のパーツでは強度も手のほうが弱いのだから、アレは本当に運が良かったのだ。いや、元々スザクはダモクレスでで死を偽装しゼロになる予定だったのだから、アレで本当にランスロットが停止したのかはわからない。スザクが負けたとわかるシチュエーションになるよう計算されていたのだとすれば?脱出用の通路がある場所で最初から負ける予定だったとしたら?爆発もすべて仕組まれたことだった可能性は?もしそうなら、あの生死をかけた戦いも全てスザクに誘導されていたことになる。その真実はスザクしか知らないことだ。

スザクの場合腕や足を捨てるつもりは無く・・・いや、場合によってはあっさり切り捨てるが、あくまでも捨て身の特攻では無く攻撃の一連の流れであって、手足を失うことは前提にない。相手の体勢を崩したり、カメラなどを破壊したり、そのための手段・・・というより、肉弾戦のイメージそのままで戦うため、戦闘の流れの中に自然と組みこんでしまうのだ。そう、無意識に。だから厄介なのだが。
KMF戦はあくまでもKMF戦。剣や槍などの武器を持っているならともかく素手で肉弾戦と変わらない動きなど、普通はやらない。カレンだってしない。装甲が薄い頭部を狙えるなら殴ったりはするが、それ以外ではやる意味がない。

「この動きはプログラムではなく、姿勢制御もパイロットの技量でカバーされている。つまり、お前以外では現在再現できない」

最強の騎士ナイトオブゼロの技を盗もうと、黒の騎士団も一時ランスロットのデータをもとにいろいろとやったが、あの凶悪な回転蹴りをまず再現できない。いや、回転蹴り自体はどうにか再現できたが、ランスロット特有の流れるような攻撃に結び付けられない。姿勢制御がうまくいかずバランスも崩れるし、回転することによるパイロットへの負荷も大きい。
ナイトオブゼロの技量がないなら、武器の無い足より剣や銃の操作に集中する方がいい。それが黒の騎士団が出した結論だったが、ナイトオブゼロ同様二代目ゼロは体術と蹴りを戦闘に組み込みんでしまった。

「ばっかじゃないの・・・」

気付かなかった私も同罪だけど。と、カレンはぽつりとつぶやいた。
戦闘の癖が出るのは仕方ないが、そもそも隠す気がゼロなのがよく分かる。

「・・・この 映像に関しては、ランスロットで集めたデータを使い、最強の騎士の動きの再現テストをゼロが行っていたと発表してしまえば終わりだ」

黒の騎士団が再現できなかったことは、ラクシャータを始めとする技術班と関係者であるカレンたちしか知らないことだ。だから、対外的にはそういうことにしても問題はない。おそらくはシュナイゼルも同じ考えだろう。
ゼロは指揮官機なのだから、オートパイロットでの戦闘テストだと言えば誰も何も言えない。相手もその位の知恵はある。だからこの動きが枢木スザクだと公の場で言ってくることはない。だが、枢木スザクの可能性を相手に気付かせることにはなった。

「で?つまり、ゼロがアルビオンと同じ動きをやっちゃったから、中身は枢木スザクだって事よね?でも、それがどうしてストーカーになるの?」

死神と呼ばれ悪逆皇帝の騎士にまでなった男だ。命を狙われる可能性は山ほどある。でもそれをストーカーというだろうか?

「僕の写真が撮れれば、ゼロが僕だと確定するからじゃないか?」

あくまでもスザクを狙うなら決定的な証拠が欲しい。中身が違ったら困る。影武者の可能性だって十分あり得る。そこから始まったのではないだろうか?だから、頻繁にドローンを飛ばし建物内の写真を撮ろうとしているのでは?マジックミラーだからどうあがいても室内は取れないが、何かの拍子に姿が映るかもと考えているのかもしれない。

「確定させた後どうするのよ?ゼロは枢木スザクです。悪逆皇帝の騎士なので世界の敵です!ってやるわけ?」

悪逆皇帝の騎士がゼロでは世論が許さない。それが狙いか?

「証拠としては弱いんじゃないか?合成写真だと言われれば終わりだろう?そんな事をしなくても、疑惑の種をまくほうが簡単じゃないか?」

やり方が回りくどい割に効果が薄いとC.C.は言った。
ゼロ=スザクと確定すればゼロを失脚させるのはたしかに容易い。
なにせ世間はゼロに対していい感情を持つモノばかりではない。ゼロを恨み、その地位から引きずりおろし、上手くいけば処刑・・・そう考えているものもいる。ゼロは黒の騎士団と超合衆国の象徴と言える。そのゼロを崩せれば、世界平和なんて容易く崩壊する。
だが、ゼロの中身がスザクなら毒はより濃くなるが、ゼロを失脚させるだけなら中身は誰でもいい。真実の中に嘘を混ぜ負の感情をうまく煽り人心を操れば、身元不明の英雄などどうとでもなる。ほんの少しの毒をたらせば、黒の騎士団内に裏切り者がうまれ、ゼロを売ることだってあり得る。実際に、その方法で扇達はシュナイゼルにゼロを売り、日本を取り戻そうとしたのだから。
C.C.の意見に「そのとおりだ」とルルーシュは頷いた。実際に殺されかけたのだから、仮面の英雄の脆さを誰よりもよく知っている。
相手もそのぐらい理解しているはずだ。

「では、ゼロの失脚ではなく、本当にスザクかどうか確定させるためだけに仕掛けてると?だが、今日も襲おうと思えば襲えるだけの人員を配置していながら、手を出さなかったのは不可解じゃないか?」

敵はたった3人に対してあれだけの人数を用意しておきながら撤退した。そこだけが引っ掛かると言いたげにC.C.は眉を寄せた。襲い、変装を解かせるほうが監視するより確率が高いはずなのだが。

「あーもしかして、私たちの見えてない所にもいたわけ?」
「いたな」

あー、そうなんだ。と、カレンは眉を寄せた。
気付かなかった。いや、気付けない場所にもいたのか。

「うーん・・・どのぐらいの人数かは解らないけど、僕たち相手に勝てないと考えたかんじゃないのかな?」
「たった3人の護衛にか?」
「3人でも僕らだよ?」

自信満々に言うのは、互いの戦闘能力をよく理解しているからだろう。普通であれば、たった3人相手に手をこまねく理由はないが、カレン、咲世子は白兵戦でもトップクラス。その三人に並ぶ護衛なら同レベルと推測はできる。なら数十人で襲ってもあっさり対処してしまう可能性を考えたのかもしれない。たとえ相手がKMFを持ち出しても、三人なら対処できるとルルーシュも考えている。

「通常戦闘ではスザクを誘拐など出来ない。それは相手も理解している。1体1ではまず勝てない。ナナリーが人質として使えるとはいえ、カレンと咲世子が守っている状況ではこれも無理。ならばさらに人質を増やせそうな屋敷内の内情を知りたかったのだろう」
スザクがいない時間でもドローンが偵察に来ている以上、一番の候補はそれだ。ゼロが屋敷にいるときを狙って襲えば、非戦闘員を守るためこちらの戦力が分散する可能性がある。だが、その情報が不確かなうちは動けない。三人相手でも躊躇していると言うのに、もし屋敷にいる人物が全員全員戦闘員なら、負けは確実だから。

「そのような相手なら恐れる必要はありません」

ジェレミアは自信たっぷりに言った。
アーニャも同意するように頷く。
なにせ、こちらの戦力を測りきれずずっと手をこまねいている相手なのだ。もし攻めてきたとしても、こちらの防衛システムも合わせれば余裕で撃退できるだろう。地下には全員分のKMFもある。

「残念だがそう簡単にはいかない」

ルルーシュの言葉に、辺りはざわめいた。

「これだけ用心深い相手が攻めてくるとしたら、確実にこちらに勝てる目処が立ったという事だ。いや、勝利が見えたと言った方がいいか。なにせ相手はこの手の戦闘に最適な能力を持つギアスユーザーだからな」
「ギアスだと?」

一瞬で、その場に緊張が走った。


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ルルーシュのセリフを全部ひらがなにしたり簡略化するのがだんだんわからなくなってきたのでやめました。そもそもルルーシュなら幼くてもちゃんと話せそうだよね・・・
そもそもなんでここまで成長させちゃったんだろう。喋れない赤ん坊のままで良かったのに。赤ん坊のままが良かったのに・・・赤ん坊のままだとほのぼののまま進まなかったからとはいえ・・・(何かしら不穏なことが起きないと完結させられないワンパターン作家)

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